大阪地方裁判所 平成8年(ワ)1409号 判決 1997年7月29日
原告
平塚友治
被告
株式会社渥美興産
ほか一名
主文
一 被告らは、原告に対し、各自一三五六万三二九一円及びこれに対する平成五年二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。
四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、各自二五六九万一七四七円及びこれに対する平成五年二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が、自転車を運転中、被告株式会社渥美興産(以下「被告会社」という。)が所有し、被告平井修志(以下「被告平井」という。)が運転する自動車に衝突されて負傷したとして、被告会社に対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、被告平井に対しては民法七〇九条に基づき、損害の賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実等
以下のうち、1ないし3は当事者間に争いがない。4は甲第二号証、第一六号証、第一八号証及び原告本人尋問の結果により認めることができる。
1 被告平井は、平成五年二月一五日午前六時ころ、大阪市西成区山王三丁目一四番一号付近路上において普通貨物自動車(岡四五す七六三三、以下「被告車両」という。)を運転して進行中、同所を進行中であった原告運転の自転車に被告車両前部右側を衝突させた(以下「本件事故」という。)。
2 本件事故は、被告平井の過失によって発生した。
3 被告会社は、本件事故当時、被告車両を所有して自己のために運行の用に供していた。
4 原告は、本件事故により左肩鎖骨脱臼、顔面挫創、左膝挫創の傷害を受け、平成六年六月三〇日症状が固定し、自動車保険料率算定会調査事務所により自賠法施行令二条別表障害別等級表一二級五号所定の後遺障害が存するとの認定を受けた。
二 争点
1 本件事故態様
(原告の主張)
本件事故は、別紙図面の北行一方通行の道路(以下「北行道路」という。)を原告が自転車で北に向かって走行していたところ、被告平井が被告車両を運転して前方不注視のうえ右道路を逆行し北から南へ向かって走行したため、被告車両の右前部と原告の自転車の右前部とが接触し、原告が道路西側のガードレールに飛ばされ負傷したというものである。
(被告らの主張)
本件事故は、被告平井が被告車両を運転して別紙図面の東西道路(以下「東西道路」という。)を西から東へ向けて走行し、本件道路との交差点(以下「本件交差点」という。)に時速約五キロメートルで差し掛かったところ、突然原告の乗車する無灯火の自転車が被告車両の右側に衝突してきたというものである。
本件事故は、原告の前方不注視によるところが大であり、原告にも八割以上の過失があるというべきである。
2 原告の損害
第三当裁判所の判断
一 争点1(本件事故態様)について
1 甲第一四号証(実況見分調書部分に限る。)、乙第一、第二号証及び原告、被告平井各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件事故当時、被告平井が被告車両を無免許で運転していたことから、原告と被告平井との合意により本件事故についての警察への届出が遅れ、平成五年三月三日に被告平井が届け出て、同月五日になって大阪府西成警察署警察官により本件事故現場で実況見分が実施されたこと、その際、被告平井は、別紙図面<3><×><7>地点で被告車両と原告の自転車とが衝突したと述べ、別紙図面のとおりの実況見分調書が作成されたこと、原告は、衝突地点の特定について記憶が定かでないと説明したが、被告平井の指示説明した衝突地点に納得し、その付近で衝突したかも知れないと説明したことが認められる。
これに対し、原告は、本件事故は、北行道路を原告が自転車で北に向かって走行していたところ、被告平井が被告車両を運転して北行道路を逆行し北から南へ向かって走行したため、被告車両の右前部と原告の自転車の右前部とが接触したというものであり、実況見分の際にも警察官に現場が違うと言ったが取り上げられなかったと供述し、甲第一三号証、第一九号証にもこれにそう記載がある。しかし、甲第一四号証(実況見分調書部分に限る。)及び弁論の全趣旨によれば、前記実況見分を実施した警察官は、被告平井側で持参した被告車両には、車底部右前角高さ二八センチから二九センチ、後方へ長さ一〇センチに払拭擦過痕があり、また、原告が持参した原告の自転車には、チェーンケース高さ三五センチのところに擦過凹損、ペダル曲損、前泥除右後側高さ五一センチのところに凹損があることを確認し、原告及び被告平井の説明も考慮に入れて別紙図面を作成したものであることが認められ、これに照らすと、原告の右供述の信用性には疑問が残る。
また、甲第一四号証には、原告の自転車と被告車両とは、出会い頭の衝突と考えるのは不自然であり、原告の自転車が被告車両の右側をすれ違う状態に進行中、原告の自転車が衝突を回避しようとして左へハンドルを切った際、被告車両右前角付近によって原告の自転車のハンドル、前輪右側面等へ斜めないし側面衝突したものと考えて妥当であるとの記載があるが、右は原告の自転車と被告車両との衝突時における両車両の概ねの方向を示唆するにすぎず、原告の自転車と被告車両との衝突地点を特定する資料とするには不十分であるというべきである。しかも、右甲第一四号証は、原告の自転車が転倒した際に生じた損傷の有無や、被告車両には車底部右前角に払拭擦過痕があることが確認されたにすぎないことを十分考慮に入れているとは言い難く、かえって、原告が、被告車両に衝突しそうになって右側に体を寄せたため体の左側がぶつかった旨の供述をし、甲第一九号証にもこれにそう記載があることに照らしても、ただちには採用できないというべきである。
そして、甲第一九号証によれば、原告は、本件事故当時、自転車を運転して別紙図面の「阪高下空地」の南西側に沿った道路を進行してきて、「料亭薩摩」脇の空地を通過して北行道路へ向かおうとしていたことが認められ、右事実に甲第一四号証(実況見分調書部分に限る。)、乙第一、第二号証、被告平井本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、別紙図面「料亭薩摩」脇の空地から北行道路へ出ようとした際に、被告平井が東西道路を西から東へ向けて時速一〇キロメートル程度で運転していた被告車両に衝突されたものと認めるのが相当である。
2 乙第二号証及び被告平井本人尋問の結果によれば、本件事故当時、東西道路からは本件事故現場の「料亭薩摩」脇の空地側の見通しが悪かったこと、被告平井は、東西道路の進路左側に駐車車両があったため、東西道路右側に寄って進行していたこと、被告平井は、原告の自転車と衝突するまで原告の存在に気付いていなかったことが認められ、本件事故は、被告平井の前方不注視の過失によって生じたものと認められる。
しかし、乙第二号証及び原告、被告平井各本人尋問の結果によれば、本件事故当時、本件事故現場には照明があったとはいうものの、あたりはまだまだ暗い状態であったこと、原告は無灯火で自転車を運転していたことも認められ、前記事故態様に照らすと、本件事故の発生には、原告にも四割の過失があるというべきである。
二 争点2(原告の損害)について
1 治療費 六八万二五〇〇円(請求九一万一三四〇円)
(一) 甲第二、第三号証、第一五、第一六号証によれば、原告は、本件事故による受傷のため、平成五年二月一六日から同月一九日まで田中外科病院に、同日から同年四月一六日まで大阪回生病院にそれぞれ入院し、また、同年六月四日から平成六年六月三〇日まで田中外科病院に、平成五年四月二二日から平成六年六月三〇日まで大阪回生病院にそれぞれ通院したことが認められる。
(二) 原告が右治療のため、少なくとも六八万二五〇〇円を負担したことは当事者間に争いがない。なお、原告は、治療費として九一万一三四〇円の損害を受けたと主張するが、原告がそのために提出する甲第七ないし第一二号証の金額を合計しても五九万九七三〇円にすぎず、前記六八万二五〇〇円との関係も不明であり(なお、甲第一〇号証によれば、右五九万九七三〇円のうち大阪回生病院入院分にかかる四一万六四二〇円は被告らにおいて支払ったものであることが認められる。)、争いのない六八万二五〇〇円の限度で本件事故による損害と認める。
2 入院雑費 七万八〇〇〇円(請求八万〇六〇〇円)
前記のとおり、原告は平成五年二月一六日から同年四月一六日までの六〇日間田名外科病院及び大阪回生病院に入院したところ、弁論の全趣旨によれば、原告は右期間中一日当たり一三〇〇円を下らない雑費を支出したものと認められるから、その合計は七万八〇〇〇円となる。
3 休業損害 五五二万五〇〇〇円(請求五六一万円)
甲第一七号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、本件事故当時、原告は有限会社協新鉄構工事に鳶職として勤務し、本件事故前の平成四年一一月から平成五年一月までの三か月間には一か月当たり五一万円を下らない収入があったことが認められる。
ところで、原告は、本件事故の発生した平成五年二月一五日から大阪回生病院を退院した同年四月一六日までの間は入院のため全く就労ができなかったと認められるほか、同月一七日から平成六年六月三〇日までの間は労働能力の六〇パーセントを喪失していたものと認めるのが相当であるから、原告の休業損害は五五二万五〇〇〇円となる。
計算式 510,000÷30×(61+0.6×440)=5,525,000
4 鑑定費用 〇円(請求三〇万円)
甲第一四号証、第二一号証によれば、原告は、本件事故の態様を明らかにする目的で中原輝史に鑑定を依頼し、そのための費用として三〇万円を負担したことが認められるが、右は、原告が本件訴訟とは無関係に作成を依頼したものであるうえ、前記のとおり本件の事実認定に直接的に役立つものともいえないから、右費用をもって本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
5 逸失利益 一三二一万七八五三円(請求一四〇三万三五二七円)
原告は、前記後遺障害により症状の固定した四二歳から六七歳までに間その労働能力の一四パーセントを喪失したものと認められるところ、原告の前記収入を基礎に、右期間に相当する年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式により控除すると、原告の逸失利益の本件事故時の現価は一三二一万七八五三円となる(円未満切捨て)。
計算式 510,000×12×0.14×(16.379-0.952)=13,217,853
6 慰藉料 三六〇万円(請求三六四万円(入通院分一四四万円、後遺障害分二二〇万円))
本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告が本件事故によって受けた精神的苦痛を慰藉するためには三六〇万円の慰藉料をもってするのが相当である。
三 結論
以上によれば、原告の損害は二三一〇万三三五三円となるところ、過失相殺として四割を控除すると、一三八六万二〇一一円となり、更に、原告が被告らから支払を受けた一四九万八七二〇円(当事者間に争いがない。)を控除すると、残額は一二三六万三二九一円となる。
本件の性格及び認容額に照らすと、弁護士費用は一二〇万円とするのが相当であるから、結局、原告は、被告ら各自に対し、一三五六万三二九一円及びこれに対する本件事故の日である平成五年二月一五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 濱口浩)
別紙図面
交通事故現場の概況 現場見取図